最高裁判所第一小法廷 昭和38年(オ)1227号 判決 1966年9月08日
上告人
康夫こと 菊池伊勢松
右訴訟代理人
伊藤俊郎
被上告人
菊池ヨテ
右訴訟代理人
中村潤吉
主文
原判決中上告人に対し原判決主文第三項掲記の各建物を収去して同項掲記の敷地部分を明け渡すことを命じた部分を破棄する。
右部分について本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
原判決中その余の部分に対する上告人の上告を棄却する。
前項の部分に関する上告費用は、上告人の負担とする。
理由
上告代理人伊藤俊郎の上告理由一について。
本件宅地は、大正一四年一一月ごろ、被控訴人(被上告人)が訴外平野孝平から買い受け、その所有権を取得したものである旨の原審の判断は、原判決挙示の証拠により、肯認できないことはない。したがって、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を非難するに帰するから、採用できない。
同二について。
原審で、被控訴人が、自己および控訴人(上告人)の各本訴請求について、被控訴人は平野孝平から本件宅地を買い受け、その所有権を取得した事実および被控訴人は控訴人に対し本件宅地の使用を許した事実を主張したこと、控訴人が相続によりまた取得時効の完成により本件宅地の所有権を取得した旨主張したことは、記録上、明らかであり、原審が、被控訴人は平野孝平から本件宅地を買い受け、その所有権を取得したが、控訴人に対しその使用を許した事実を確定したうえ、本件宅地の所有権に基づいてその明渡等を求める被控訴人の本訴請求を認容したことは、判文上、明らかである。
ところで、被控訴人の本訴請求については、被控訴人が控訴人に対し本件宅地の使用を許したとの事実は、元来、控訴人の主張立証すべき事項であるが、控訴人においてこれを主張しなかったところ、かえって被控訴人においてこれを主張し、原審が被控訴人のこの主張に基づいて右事実を確定した以上、控訴人において被控訴人の右主張事実を自己の利益に援用しなかったにせよ、原審は右本訴請求の当否を判断するについては、この事実を斟酌すべきであると解するのが相当である。しからば、原審はすべからく、右使用貸借が終了したか否かについても審理判断したうえ、右請求の当否を判断すべきであったといわねばならない。しかるに、原審が、このような措置をとることなく、前記のように判示しているのは、ひつきよう、審理不尽の違法を犯したものというほかない。そして、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすおそれがあることは明らかであるから、この点に関する論旨は理由があり、原判決中被控訴人の本訴請求を認容した部分は破棄を免れないといわざるをえない。
よって、右破棄部分以外の原判決は正当であるから、この点に関する上告は棄却すべきものとし、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、八九条を適用し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠)